同時進行は2つのことを並行して進めていくことを言いますよね。
同時進行していると作業も効率よく進みそうです。
実際、同時進行で作業が効率よく進む場合もあります。反対に、効率が悪くなることもあります。
実は効率の悪い同時進行を行うと脳にも悪影響が出ると言われています。
この記事では、脳科学や心理学でマルチタスクと言われる同時進行について解説します。
どのような場合なら同時進行でも良いか、どのような同時進行をしてしまうと脳に悪影響が出るのかについても説明します。
マルチタスクとシングルタスク
マルチタスク、シングルタスクという言葉があります。
ざっくり説明するとマルチタスクは同時進行で、シングルタスクは一つのことに集中することです。
マルチタスクとは
マルチタスクというのは、複数のことを同時に考え、作業を進めていくことを言います。
例えば、スマホを操作しながら車の運転をしたり、パソコンで作業をしながら、スマホで調べ物をしたりするときが、マルチタスクです。
車だとものすごく危ないし、つかまっちゃいますよね。
シングルタスクとは
シングルタスクというのは、目の前の一つのことだけに集中して作業を進めていくことを言います。
周りのことが気にならないくらい『一つのことに集中』していたことはありませんか?
『集中しすぎて大事な約束に遅れちゃった』ときもこのシングルタスクで集中していたからです。
集中したいけど大事な約束も忘れたくない場合の解決方法については後で解説します。
マルチタスクは2つのデメリットがある
同時進行は効率がよさそうだし、手際の良い人ってかっこいいですよね。ついついマルチタスクをして真似したくなりますが、ものすごい大きなデメリットが存在します。
- 脳が縮む
- 生産性が低下する
この2つを解説します。
脳が縮む
マルチタスクをすると脳に悪影響が出ます。
マルチタスクをしている人の脳をMRIで調べた研究があります。その研究で、脳の灰白質の密度が縮小してしまったという結果が出ています。
脳が縮むことで影響が出るのは認知(記憶力、思考力など)、感情コントロールです。
脳が縮むって怖いですよね。それだけ、マルチタスクというのは危険ということです。
生産性が低下する
大きな欠点の2つ目は生産性が大幅に低下します。
同時進行の方が効率よく見えますが、実験結果から40%くらい効率が悪いというデータがあります。
2つのことを同時並行で行うよりもシングルタスクを2回行うほうがはやく終わるということです。
同時進行でも悪影響がでない2つの方法
脳が縮むことはともかく、マルチタスクは生産性を低下させるというデータがあると聞いて、少し疑問に思う人もいるかと思います。
同時進行でテキパキと作業をこなしている人が身近にいると思います。
一番わかりやすい例で言うなら『お母さんの家事』です。
同時進行で進めていて効率よくどんどん終わらせているイメージはありませんか?
同時進行でも悪影響が出ない場合は2つあります。
- 段取り
- 脳の同じ場所を使わない
この2つを解説します。
段取り
同時進行で効率よくテキパキと進めている人は段取りが良いです。
段取りというのは、シングルタスクを順序よく進めることを言います。
段取りを決めてシングルタスクを順序よく進めていくポイントは、一つの作業を完了させて、終わったことを意識のそとに追いやることです。
先ほどは『お母さんの家事』を挙げたのでみそ汁を例にして解説します。
.
お母さんの家事の例
みそ汁は沸騰させてしまうと風味が落ちておいしくなくなってしまいます。
だからと言ってみそ汁を作るときに、火にかけてからずっと見守っていたら時間がいくらあっても足りません。
そこで、みそ汁を火にかけたら、他のおかずを作り始めます。
おかずをちょうど作り終わるタイミングで、なぜかちょうどよくみそ汁もおいしく出来上がっています。
このとき何が起きているかというと、シングルタスクを2つ行っているのです。
.
- みそ汁を火にかける(シングルタスク)
- 別のこと(他のおかずを作るなど)をする(シングルタスク)
.
『みそ汁を作る』ではなく、『みそ汁を火にかける』になっているのがポイントです。『みそ汁を火にかける』で一つの作業は完了しています。
次におかずを作り始めますが、このときみそ汁のことは終わったこととして、意識の外にあります。そして新しいタスクの『おかずを作る』の一点に集中しているのです。
.
なぜ火にかけたことを終わったこととして意識の外に追いやれるのでしょうか?
それは料理に熟練しているので、『おかずを作る』時間がちょうど、みそ汁がおいしくなる時間と等しくなることを知っているからです。おかずを作ることに集中していれば、作り終わる頃に火を止めればちょうど良いとわかっているのです。
※ですので火や油を使っているときに話しかけるとシングルタスクの段取りにくるいが生じるので怒られます。
.
説明を簡単にするために、2つの作業を同時に完了させる例をあげましたが、もっと多数のシングルタスクを段取りをつけて進めているのが『お母さんの家事』です。
.
勉強での例
シングルタスクを勉強で活用する場面があります。
英語の長文読解の練習をしているときに知らない単語が出てきました。
そのときどうしていますか?
.
この時とるべき方法は2つあります。
- 知らないものはしょうがないと見切りをつけてそのまま長文読解を続ける
- 知らない単語を調べて、別のノートに書いてあとで覚えることにして長文読解を続ける
.
基本的には長文読解というタスクを続けていきます。
①の場合は本番を想定した練習です。本番でも当然知らない単語が出てくるのでそれに惑わされずに文章を読み進める練習をする必要があります。
.
②は、内容理解を中心に練習する場合です。単語の意味がわからず、文章の内容が全くわからなくなっては勉強にならないので単語を調べます。
しかし単語を覚えようとしてはいけません。長文読解のタスクが完了していないのに単語を覚えるというタスクを追加してしまうとマルチタスクになってしまうからです。
.
あとで覚えるために調べた単語をノートに書くという儀式を行うことがポイントです。調べた単語はあとで覚えれば良いから、『今は気にしなくてもいいんだ』と自分に認識させることが大切です。
儀式を行うことで、途中ではさんだタスク(単語を調べる)を意識のそとに追いやることができます。
. .
シングルタスクで集中して大事な約束を忘れないためには
タスクを1つずつ完了させて、終わったことは意識のそとに追いやり、目の前の一つのことに集中する
これが、効率よくものごとを進めるポイントです。
.
でも、一つのことに集中しすぎて、大事な約束を忘れてしまうと思うと集中できないですよね。
そうならないためには、2つ方法があります。
.
一つはみそ汁のところで解説したように、自分の行動する時間を把握して、どの行動を積み上げていけば約束の時間になるか計算していく方法です。
.
もう一つはタイマーなどを使うことです。なんだそんなことかと思うかもしれませんが、タイマーを使うことで集中しても『安心』だと思えれば良いのです。
.
大事な約束でも、火や油を使う場面でも、単語を調べる場面でも
『放っておいても安心』
を作り出すことがシングルタスクで集中するためのポイントになります。
.
脳の同じ場所を使わない
同時進行しても悪影響が出ないもう一つの方法は脳の同じ場所を使わないことです。
.
勉強したり、何らかの作業をするときは、脳のワーキングメモリという場所で記憶を引っ張り出しながら考えたり、関連付けをして覚えようとします。
その場所を使わないような作業や動作であればマルチタスクにはなりません。
.
音楽を聴きながら勉強する
例えば音楽を聴きながら勉強したほうがはかどる人も多くいます。
『聴く』と『勉強』のマルチタスクのように見えますが、脳の同じ場所を使っていないので勉強に集中できているのです。
.
しかし、歌詞付きの音楽や、思い出のある音楽を聴くとマルチタスクになってしまいます。なぜなら歌詞の意味から連想したり、思い出がよみがえってきてしまうからです。連想や思い出は、勉強や作業をしているときに考え事をする場所と同じところ(ワーキングメモリ)を使ってしまうのです。
.
関連記事 作業記憶(ワーキングメモリ)とは
.
音楽を聴きながら勉強する場合は歌詞が無く、思い出深くない曲を選びましょう。
.
歩きながら勉強する
あのアインシュタインも『歩きながら考え事』をしてひらめきを得ていたと言われています。
.
歩くなどの運動は小脳、考えたり感情をコントロールしたりするのは大脳を使います。つまり使う部分が異なっています。(参考ページは下段にあります。)
歩くときに、『まず右足を前に出して次に左足を出そう』のようにいちいち考えて歩かないですよね。運動というのは小脳が自動的にやってくれているのです。
.
この『歩きながら勉強をする』は非常に効果が高く、小脳と大脳が使われるので脳をたくさん働かせます。そのため記憶力も向上し勉強がはかどります。
会議を立ったまま行うという会社の話を聞きますが、このような脳の仕組みを利用しているのです。
.
マルチタスクが与える脳の影響で不安になった人へ
以上のように
- 段取りをつけてシングルタスクで進める
- 脳の違う部分を使うこと
この2つが同時並行で進めても良い例です。
.
これ以外の同時進行は脳に悪影響が出ます。
今までマルチタスクしていた人は脳に悪影響が出ると聞いて心配するかもしれませんが安心してください。
脳の灰白質というのは密度を増やすこともできると言われています。それが『マインドフルネス瞑想』です。
私はマインドフルネス瞑想入門という本を読んでから、1日10分、自分自身を見つめる時間を作っています。
瞑想というとスピリチュアルで怪しい感じがしますが、科学的に立証されていて瞑想の時間を設けている会社も増えてきています。参考にしてみて下さい。
参考ページ
マルチタスクは灰白質の密度を下げる
灰白質は認知(記憶力や思考力)、感情コントロールを担っています。
英サセックス大学の研究によると、スマートフォンやノートPCその他のメディア端末を同時に利用する、いわゆるマルチタスク行動により、人間の脳の構造が変わるという。
この研究は、高度なマルチタスク行動と、注意力散漫および落ち込みや不安などの感情的問題との間に関連性があるとする別の研究を裏付けるものだ。
この論文を発表した神経科学者のケプ・キー・ロー氏と金井良太博士は、75人の成人被験者にマルチタスクに関する質問をし、全員の脳の機能的磁気共鳴画像(fMRI)を撮影して関連性を調べた。
その結果、マルチタスクを行う人の前帯状皮質(ACC)の灰白質密度が、行わない人よりも目立って低かったという。ACCは、認知および感情コントロール機能を担う部分だ。
複数端末の同時利用者は脳の認知・感情制御部分の灰白質密度が低いという研究結果 ITmedianewsより
歩く、勉強するは脳の使う場所が違う
脳のしくみと構造
脳は、人のからだ全体をコントロールしている、とても大切なところです。大きく分けて、以下の3つを調節する司令塔の役割をしています。【大脳(だいのう)】
脳 からだとくすりのはなし 中外製薬
ものを考えたり、決めたりする知的なはたらき
【小脳(しょうのう)】
歩く・走るといった運動をコントロールするはたらき
【脳幹(のうかん)】
呼吸など、生命をコントロールするはたらき
脳はとても多くのしごとをしているので、どの部分でどのはたらきをするかがきちんと分けられています。
勉強法 集中力