高校社会の倫理で登場する哲学者たちの思考法を学ぶシリーズです。
倫理を高校で教えてもらうときは、なぜソクラテスは〇〇と言ったか、〇〇とは何かというテスト用の知識ばかりになってしまいます。
このブログでは、倫理のテスト的な知識は無視して、哲学者の思考法に焦点を当てて紹介していきます。
哲学者たちは論理的思考によって深く考え命題を探求してきました。
論理的思考で深く考えることは、これからの変化の激しい時代において必要不可欠です。
この記事では深く考える方法の一つソクラテス式問答法を紹介します。
ソクラテス
ソクラテス(紀元前469年頃 – 紀元前399年)は古代ギリシャの哲学者です。弟子に哲学者のプラトンがおり、そのプラトンの弟子にアリストテレスがいます。
ソクラテスは哲学の祖とされていますが、ソクラテス自身は自分の考えを書物に残していません。
弟子のプラトンらの著作に登場するソクラテスとの対話によってソクラテスの考えを知ることができます。
ソクラテスが言ったとされる有名な言葉として
「無知の知」や「悪法も法なり」などがありますが、ソクラテス本人が本当に言ったのかは議論があるようです。
このブログ記事ではあくまで哲学者から思考法を学ぶことに特化するので、言った言ってないは無視して進めていきます。
汝自身を知れ
ソクラテスというと「無知の知」が有名です。その「無知の知」のもとになる考え方が「汝自身を知れ」です。
「汝自身を知れ」は、神殿の入り口に掲げられていた古代ギリシャ人の格言です。
神殿の入り口に書いてある理由は、「入口前までは人間世界だが、この入口を通った先は神域である」という意味のためでした。そこから転じて「身の程をわきまえる」というような格言として使われるようになりました。
ソクラテスは自分自身を知ろうとしました。
自分自身の知識を振り返ってみると、知っているつもりだったことが、実はあいまいな部分が多いことに気づきました。このあいまいな部分を明確にするために、もう一度よく検証してみようとしたのです。
ソクラテスの「汝自身を知れ」の受け取りかたは、現代で言うなら心理学の「メタ認知」と同じです。
参考記事:
無知の知
弟子のプラトンが書いた「ソクラテスの弁明」によれば、この神託によってソクラテスの人生は決定づけられたとされます。
ソクラテスは信心深い人でした。そのため「神様の言うことは間違いない」と思う反面、「汝自身を知れ」のエピソードから「自分は知らないことも多い」とも思っていました。
この相反する2つの事柄を前に行き詰まっていましたが、問答法という手法を用いて、「無知の自覚があるだけ他の人よりも知恵がある」という新しい結論を見出しました。
この矛盾する2つの事柄から、新しい事柄を見出すことを弁証法といいます。弁証法は後にドイツの哲学者ヘーゲルによって一つの完成形を迎えます。
※ヘーゲルの弁証法的論理学は後日アップ予定です。
ソクラテスの問答法
ソクラテスは相手に質問する形で、矛盾点をあぶりだし、「無知の知」に気づかせる対話を行いました。
なぜ「無知の知」に気づかせるかというと、知とは与えられるものではなく、矛盾や不確実なものを自覚することにあるとソクラテス(プラトン)は考えていたからです。
ソクラテスの問答法の流れ
ラケス将軍と勇気について行った対話を例にあげます。
1.具体的な内容を一般化する
将軍なら勇気のように、その人の得意とする分野について質問します。そうすると自分の得意分野に関連する話になってしまいます。得意分野以外でも通じるような定義について質問します。
2.抽象的な意見を具体的にしていく
どんな場面でも使える定義となると「忍耐強い」のようにあやふやな表現になります。
「勇気」≠「忍耐強い」なので、「勇気」の意味に近づくように「忍耐強い」に「思慮深い」という言葉を付け加えることで、少しずつ具体的にしていきます。
3.具体化したら矛盾点がないか点検する
「忍耐強い」+「思慮深い」のように言葉を足していくと、矛盾点が出てくるようになります。
ラケス将軍との問答はこのあとも続きますが、矛盾点を一つずつ解消していくことで勇気について深く考えることができるようになるのです。
問答法の流れまとめ
- 具体的な内容を一般化する
- 抽象的な意見を具体的にしていく
- 具体化したら矛盾点がないか点検する
- 2に戻る
問答法を繰り返していくことで、あやふやだったことが明確化していきます。
問答法の欠点は相手を選ぶこと
問答法の欠点は相手を選ぶことです。
ラケスの例の場合、勇気=忍耐強さ+思慮深い という仮説を立てています。
ソクラテスに言わされている感はありますが、受け答えをしている中でラケスの意見としてこの仮説は立てられています。
そしてソクラテスはその仮説の矛盾点をついてきます。
1〜2回くらいならいいんですが、何回もやられると嫌になってしまいますよね。
実際、ソクラテスとの会話から逃げるように去っていった人もいました。
そしてソクラテス自身、この問答法をいろいろな人に行ったせいで、数多くの敵を作ってしまいました。その結果、公開裁判にかけられ死刑判決が出てしまいました。
プラトンの解決方法
ソクラテスの弟子のプラトンはこの問答法の欠点である相手を選ぶの解決方法として、自分自身に対して問答法を行いました。
具体的には、ソクラテスが問答したという形を取り、すでに亡くなっているソクラテスにプラトンが考えていることを述べさせる形を取りました。
プラトンのソクラテスに関する著作は、前半はソクラテスの思想が濃く現れていて、中期〜後期はプラトン自身の考えが入っていると言われています。
アリストテレスの批判
プラトンの弟子のアリストテレスは、プラトンの考えを批判します。
プラトンの思想はイデア論といいますが、理想主義的であるというのです。
プラトンのようにずっと自分自身に対して問答法を行っていると論理は完璧になりますが、現実的な考えから少しずつ離れていってしまいます。適度に対話を行うことも重要です。
まとめ
汝自身を知れ
知っているつもりでもよく考えてみると曖昧なことがあるかもしれません。
無知の知のエピソードから
信じている神様の言っていることと自分が感じていることが矛盾している。相反する事柄に対して思考停止せずに考えを深めることで、矛盾しない新しい考えが生まれる
ソクラテス式問答法
- 具体的な内容を一般化する
- 抽象的な意見を具体的にしていく
- 具体化したら矛盾点がないか点検する
- 2に戻る
問答法の注意点
- しつこいと相手が嫌になる。
- 自分自身に問いかける問答法なら敵を作らない
- 自分自身ばかりに問いかけていると理想主義になる
- 独りよがりにならないように気をつけよう
【おまけ】無知であることを知ることは効率化につながる
無知であることを自覚することで迷わずに行動できるというわけです。
現代でも、自分の得意分野に集中して、それ以外は人に任せたほうが効率的ですよね。ほぼ同じようなことを無知の知のエピソードで語られているのです。