倫理は高校で学習する教科の一つです。
「倫理」には道徳、規範という意味がありますが、高校で学習する倫理という科目は哲学や思想の歴史がメインです。
哲学は何を学ぶ学問なのか?いまいちよくわかりませんよね。私も何を学ぶ学問なのかわかりませんでした。経済学なら経済、物理学なら物理のように、名前を見れば何を学ぶ学問かがわかりますが、哲って何?となります。
哲学は何を学ぶ学問なのか?この答えは、哲学者と言われた人たちが何をどのように考えていたか見ていくとわかります。
結論を言うと、哲学者は物事の本質は何かを探し、その本質からどのようなことが考えられるかということを探求しています。本質を捉えるためには論理的思考が必要です。哲学者たちは論理的思考を使って考えを深めてきました。
しかし倫理の授業では自然科学、政治経済、思想などのテーマの区別なく歴史として古い時代から順番に哲学者を取り上げるので、何を学ぶのかわかりにくくなっています。
社会科は戦略的に生きるための知識を学ぶことができる科目です。
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戦略的に生きるために
論理的思考は不可欠です。
なぜなら、どんなにたくさんの情報を知識として持っていても、その情報を上手に調理する論理的思考がなければ間違った方向へ突き進んでしまうからです。
社会科の倫理(主に哲学)に登場する哲学者たちから論理的思考とはなにか学ぶことができます。
まずこの記事では最初のギリシャ哲学者と言われたタレスという人物を例にあげます。
その他の哲学者の思考法についても順次記事にしていく予定です。
最初のギリシャ哲学者タレス
タレス(紀元前624年頃 – 紀元前546年頃)は、最初のギリシャ哲学者と言われている人物です。
などと、わけわからんことを言いました。
この言葉の意味そのものを考える必要はありません。なぜなら現代科学の知識を持つ私達にとって、万物の根源が水なわけないことは、わかりきっていることですから。
ここで大事なのは、タレスはどのように考えてこの結論に至ったのかを知ることです。
タレスが最初のギリシャ哲学者と言われた理由は「本質を論理的に探した」ためです。
本質を論理的に探すためにタレスはどのように考えたのか、思考法を学んでいきましょう。
タレスから学ぶべき思考法
タレスから学ぶべき思考法は次の3つです
- 現物重視の姿勢
- 共通点から新しい原理を見出す
- 情報が不足していると結論を間違える
現物重視の姿勢
古代ギリシャ人は、このようになぜ起きているか説明のつかないことに対して、理由を神話、おとぎ話などの寓話に求めました。(これをミュトスといいます)
しかし相似比を使ってピラミッドの高さを割り出したり、タレスの定理を発見するなど、数学者としても活躍していたタレスは
神様のような、あいまいであやふやな存在のせいにして思考停止せず、自分が実際に見たり触ったりできる範囲の中で法則を探してみようとしたのです。
現代でも現物重視の思考法は大事
古代ギリシャ人だけが思考停止していたわけではありません。例えば、日本人なら江戸時代まで大ナマズが暴れるから地震が起きると信じてきました。
科学的思考が発展した現代では、現物重視の姿勢はいろいろな場面で使われます。たとえば経営の世界なら「3現主義」や「5ゲン主義」が有名です。3現主義は「現場」「現物」「現実」の3つの「現」からきています。5ゲン主義は3現主義に「原理」「原則」の2つのゲンを加えて5ゲン主義といいます。
5ゲン主義は主に製造現場で使われる用語です。
社長や管理者は、3現主義で現実を正しく知ることが大事です。
- 現場(工場)に行き
- 現物(製品や機械)をよく見て
- 現実におきていることを正しく知る
5ゲン主義は、現実におきていることから原理原則にそった対策を行うというものです。
社長が現場に行かず、現物も見ないで、部下の報告だけで現実を知ったつもりになって対策を立てることを「机上の空論」として戒めています。
タレスも同じように神話や寓話のような、自分が体験したことのない「机上の空論」よりも、フィールドワークで実際に触ったり体験したことから考えを深めていきました。
※実際に観察したり体験したことも先入観によって事実の受け止め方が異なってきてしまいます。17世紀の哲学者フランシス・ベーコンは先入観の原因を4つに大別しました。
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共通点から新しい原理を見出す
結論が大外ししてしまっているので、何言ってんだ!ってなってしまいますが、考えている過程が重要です。
実際に体験したり、手に触れた複数のことから、一つの新しい考えを生み出したことがとても大きなことなのです。
このタレスの考え方は帰納法の原型となり、様々な哲学者がこの思考法を磨き上げ、近代科学の発展に大きな影響を与えます。
論理的に話す、書くというのは、つながりが明確であることが必要です。そのつながりも一つの共通点から出発していると説得力が増します。
情報が不足していると結論を間違える
19世紀のドイツ哲学者ニーチェはタレスの「万物の根源は水である」という命題を「とんでもない思いつき」としています。(しかし真剣に考える必要があるとも言っています。理由は結論を出す過程が正しいからです)
現在なら原子や分子という科学上の発見があり、水は水素分子と酸素分子が結合して水になっているだけというのがわかります。
タレスも現代科学の知識があればこのような「とんでもない思いつき」の結論には至らなかったはずです。
つまり情報が不足していれば、どんなに素晴らしい思考法があっても結論を間違えてしまうということです。
情報社会の現代も情報不足になる
今は情報社会と言われており、情報過多になっていますが、気をつけないと情報不足になります。
アマゾンの例
アマゾンで本を買うとレコメンド機能として購入履歴や閲覧履歴に基づいたおすすめが表示されます。そのためおすすめばかり買っていると情報がかたよってしまいます。
Twitterの例
Twitterで情報収集していても同様です。フォローした人の投稿がタイムラインに表示されます。自分の意見に近い人ばかりフォローしてしまうと情報がかたよってしまいます。
情報というのは自分の出したい結論に向けて集めると、当然自分の思った通りの結論に至ります。そして結論が論理的であれば納得して信じてしまうようになります。
しかしそのような結論はニーチェの言を借りるなら「とんでもない思いつき」です。
「とんでもない思いつき」にならないように正しい情報を幅広く求めていくことが重要です。
まとめ
哲学者は本質を探し、本質からどのようなことが考えられるか探求した
哲学者の思考法を学ぶことで本質を捉える論理的思考が学べる
最初のギリシャ哲学者タレスから学べることは次の3つ
- 現物重視の姿勢
- 共通点から新しい原理を見出す
- 情報が不足していると結論を間違える
古代ギリシャ哲学はタレスを出発点として発展していきまます。
そしてソクラテス、プラトン、アリストテレスによって古代ギリシャ哲学の黄金期を迎えます。
関連記事でソクラテス(プラトン)とアリストテレスについて解説しています。
良かったら読んでみてください。
タレスの思考法は「もとになる情報」が間違っていると結論が「とんでもない思いつき」と言われてしまいます。
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