高校社会の倫理に登場する人物から論理的思考を学ぶことができます。
古代から哲学者と言われる人たちは、論理的思考によって本質について考えを深め、新しい発見をしてきました。
この記事で紹介するヘーゲルは、高校の倫理の時間でも習うのですが、あっさり終わってしまう場合があります。
しかしヘーゲルの弁証法論理学は、思考法としてとても重要で、高校・大学を卒業して社会人になっても使います。この思考法を知っていれば人生も豊かに楽しく過ごせるようになると私は思っています。
もっと深く学んで身につけてほしい!と思ったのでこの記事にて解説します。
ヘーゲルの哲学で有名な言葉は「アウフヘーベン」です。
2017年の都知事選で小池都知事が発言し、流行語大賞にもノミネートされました。
参考ページ:「現代用語の基礎知識」選 2017ユーキャン新語・流行語大賞 ノミネート語発表
しかしアウフヘーベンだけ知っていてもヘーゲルの弁証法論理学の思考は理解できないので、弁証法の歴史を振り返りつつ解説します。
ヘーゲルの時代背景
ヘーゲル(1770~1831)はドイツの哲学者で、カント以降のドイツ哲学の中心「ドイツ観念論」を完成させた人物です。
ヘーゲルの生きた時代は、大変革の時代でヘーゲルの思考にも大きな影響を与えています。
ヘーゲルが生まれた場所は、現在のドイツの南西の都市シュツットガルトです。
当時は神聖ローマ帝国の領邦国家(ヴュルテンベルク公国)でした。その後、ナポレオンの侵攻とプロイセンの台頭、ドイツ統一に向けた動きが出てくる激動の時代でした。
ドイツ以外でも1776年にアメリカ独立、1789年にフランス革命が起こり、今までの枠組みが崩壊し、「自由」や「権利」といった新しい価値観が世界を席巻し始めた時期でもありました。
このように、今まで当たり前だった枠組みが崩壊し、新しい秩序を構築していく流れは、哲学の世界でも同様に起きていました。
弁証法の歴史
弁証法は、ヘーゲルの登場よりも古く、ギリシア哲学のころから議論されています。哲学者によってその内容は異なっています。
ヘーゲルの弁証法論理学のポイントは「矛盾」ですが、古代から続く弁証法の歴史でも「矛盾」を指摘し考えていた共通点があります。
古代 ソクラテスの問答法
弁証法は、古代ギリシャ哲学では、「他人との議論の技術」や「事物の対立」のことを意味していました。
他人との議論で有名なのはソクラテスの問答法で、ソクラテスは専門家との問答を通じて、物事に内在する矛盾を明らかにすることで真理を探求しました。
高校社会の倫理で登場する哲学者たちの思考法を学ぶシリーズです。 倫理を高校で教えてもらうときは、なぜソクラテスは〇〇と言ったか、〇〇とは何かというテスト用の知識ばかりになってしまいます。 このブログでは、倫理のテスト的な知識は[…]
その後、ソクラテスの弟子のプラトンによって、「対話、問答」から「推論する技術」に発展していきました。
プラトンの弟子のアリストテレスはそれをさらに三段論法のように技術を形式化し、学問を体系化しました。
中世 スコラ学
アリストテレスの著書や哲学はイスラム世界での研究を経て、中世ヨーロッパに輸入されます。
そしてキリスト教神学者・哲学者によってスコラ学という学問のスタイルが確立されます。
スコラ学という学問では聖書や文献の矛盾点、論点をあげ、偏見なしに考察をおこなうようになりました。
具体的には、聖書や文献の用語を一つ一つ吟味して、意味があいまいな用語は、賛成と反対のような2つの立場にわかれて議論をつくし、納得できるような意味を考えていました。
スコラ学以降の哲学
スコラ学はアリストテレスの哲学を継承していました。そのアリストテレスの哲学は、土台となる科学知識が古代のもので、天動説を中心としたものでした。その理論は天動説を起点に完璧に構築されていました。
しかし近代に入り科学が発展し、土台となる天動説が否定されたことで、哲学は再構築を図ることになります。
イギリスでは人は経験からさまざまな知識や概念を帰納的に獲得するという経験論
ヨーロッパ大陸では、人間が生まれながらに持っている理性によって演繹的に真理を探求する合理論
2つの対照的な哲学はカントによって統合が図られます。
ヘーゲルは大学時代に、カントの哲学を学びフランス革命に大きな影響を受けます。
歴史からわかること
アリストテレスからカントまで、その時代において、一つの真理を先に決めて理論体系を構築したとしても、その真理はその形式・体系の中での真理に過ぎません。
アリストテレスの自然学や哲学は、地動説が否定されるまでは全ての学問のベースになるほどの普遍的真理と思われていました。しかし科学の発展によって天動説が支持されるようになると、別の新たな真理が必要になりました。
アリストテレスが紀元前300年代の人物で、地動説を唱えたコペルニクスが1500年代の人物なので、アリストテレスの学問体系は1800年間、真理として学問のベースにありました。それだけ長く続いても絶対的な真理ではなくアリストテレスの学問体系の中だけの真理に過ぎなかったのです。
ヘーゲルはこのような歴史の流れを見て、普遍的な真理に到達するためには、時代ごとの形式・体系に固執しないことが大事だと考えました。
ヘーゲルの弁証法論理学
時代ごとの形式・体系に固執しないことが大事だと考えたヘーゲルは、弁証法の考えの一つ「物事には対立する矛盾が必ず内在している」という点に注目します。
つまり、ふだん私たちが何気なく信じていることや、感じていることについても、何らかの矛盾があるはずなのです。
その矛盾を発見し、その矛盾を克服していくことで真理に近づいていこうとするのがヘーゲルの弁証法論理学です。
ヘーゲルの弁証法論理学のキーワードは4つです。
- 正(テーゼ)
- 反(アンチテーゼ)
- 合(ジンテーゼ)
- 止揚(アウフヘーベン)
正(テーゼ)
普段何気なく信じていることや感じていることです。特に批判なく受け入れている現実を言います。
反(アンチテーゼ)
テーゼを否定する立場のことです。物事には矛盾が必ずあります。その矛盾はテーゼと反対の立場になります。
止揚(アウフヘーベン)
テーゼ、アンチテーゼ双方を取り込んで新しい考えを生み出します。どちらか一方だけを否定することはありません。
テーゼ、アンチテーゼの対立する立場から一段上の考えに持っていくことが大事です。
合(ジンテーゼ)
アウフヘーベンによって得られた新しい考えをジンテーゼといいます。
具体例
正(テーゼ)・・・ゲームなんて所詮子供の玩具でしょう 私達は最先端のテクノロジー企業です。おもちゃは作りません。
反(アンチテーゼ)・・・ゲームそのものは楽しいものでは? チャレンジなしに最先端のテクノロジーをずっと維持できるのですか?
合(ジンテーゼ)・・・私達の音楽技術や映像技術を生かし、子供から大人まで楽しめるゲーム機を作りました!
プレイステーションの出来上がりです。その後プレイステーションは世界を席巻したのは知ってますよね。ゲームも子供から大人まで楽しむようになりました。
このような例はたくさんあります。あなたの目の前にあるほとんどの商品はこのような過程を経て製品化もしくは改良されています。
いまなら、コロナによる行動変容によって新しい考え方や価値観が生まれていますが、今まで何も感じていなかった矛盾がコロナウイルスを契機としてたくさんでてきた結果です。(例:満員電車 学校の皆勤賞など)
ポイント
ソクラテスの問答法と同じように、ヘーゲルの弁証法は、矛盾を明確にすることで発展させていくものです。
矛盾点は自分で発見したり、対話によって気付かされたりと様々です。自分が無批判に信じていたり感じていたりすることを否定されるので、誰かに言われるとちょっと嫌な感じがするものです。
ソクラテスは対話によって矛盾点をついてばかりだったので、嫌われてしまい最終的には死刑判決が出てしまいましたよね。相手から指摘されるのは恥ずかしかったり、自分の信じているものを馬鹿にされたと感じてしまうことも往々にしてあります。
しかし、その感情を客観視してアンチテーゼを受け入れることができれば、大きな成長のチャンスが訪れるでしょう。
まとめ
ヘーゲルの弁証法論理学で考えるときは次の4つが重要
- 正(テーゼ)
- 反(アンチテーゼ)
- 合(ジンテーゼ)
- 止揚(アウフヘーベン)
正(テーゼ):普段何気なく信じていることや感じていること。特に批判なく受け入れている現実。
反(アンチテーゼ):テーゼを否定する内容。必ず物事には矛盾がある。
止揚(アウフヘーベン):テーゼ、アンチテーゼ双方を取り込んで新しい考えを生み出す。どちらか一方だけを否定しない。
一段上の考えに持っていくことが大事。
合(ジンテーゼ):アウフヘーベンによって得られた新しい考え。新しい価値観や常識。
アンチテーゼは現在の自分が信じていることや感じていることを否定するものなので、目をそらさずに受け入れる事が重要。
関連ページ
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